2010年05月31日

相対評価で報酬が決まる場合、「足の引っ張り合い」は起きるか?―Real Effort Experimentによる検証―Carpenter et al.(2010 AER)

Carpenter, Matthews and Schirm(2010) "Tournaments and Office Politics: Evidence from a Real Effort Experiment" American Economic Review


ある職場で、成績が1位であったら、ボーナスが与えられるとしよう。あなたは何をするだろうか?1つは純粋に仕事を頑張る、という手段。非常に素晴らしいことである。しかし他にも手段がある。相対評価であるから、相手の評価を落とすことができれば昇進の可能性は高くなる。人の手柄を自分のものにしたり、悪い噂を流したり、手段はいろいろ考えられる。


本論文は、このような相対評価によるインセンティブがあり、かつ相手を妨害できるような状況における実験室実験を行ったものである。実験室で被験者は、手紙を印刷し、宛名を書いた封筒に入れるという仕事を行う。労働経済/組織の経済学の実験で、このように実際に仕事を行わせる実験を"Real Effort Experiment"と呼ぶ。(対して、CostのかかるEffort Levelを選ぶことで、仕事をしたとみなす実験を"Monetary Effort Experiment"と呼ぶ。)


Treatment(実験の設定)は3種類、「歩合給」「歩合給+トーナメント」「歩合給+トーナメント+妨害が可能(被験者同士で評価を行う)」である。結果として、歩合給よりも「+トーナメント」のほうが生産性が高くなるが、妨害が可能になると、歩合給のときよりも生産性が低くなってしまうことがわかった。これによって、妨害が発生してしまうような職場環境では、相対評価による競争(例えば昇進競争)はdisincentiveとなってしまう可能性がある、というインプリケーションが得られる。


続きでは実験の詳細を書きます。

<実験デザイン>

被験者は8人1グループで、同一の作業を行う。また、各treatmentでも作業内容は同一で、報酬体系のみが異なる。


1.作業:PCで、手紙の空欄部分に必要事項をタイプし、印刷する。封筒に宛名を「手書き」で書き、封筒に手紙を封入する。
2.評価:8人+実験者で、順番に相互評価を行う。評価は、量・質(0-1の間で評価)ともに行う。
 →手書きの部分があるので、質には主観的要素が入る。
 →また量の評価を落とすことは「あからさまな」妨害である。
3.報酬支払:各treatmentの設定に従い、報酬が支払われる。
4.客観的評価:後日、封筒はUS Postal Serviceの人により客観的に評価される。


treatment(報酬体系)は以下の3通り。

A.歩合給 実験者の評価(量×質)に従って報酬が支払われる。
B.+トーナメント A.にプラスして、量×質が最も高かった被験者に25$が加算される。
C.+妨害 全員の評価("量"の平均×質の平均)に従って歩合給が支払われ、さらにトップに25$が加算される。

<結果>
結果は以下の通り。順番に客観的量×客観的質、主観的量×主観的質を表す。

A. 10.5, 11.0
B. 11.8, 10.4
C. 9.1, 5.65

客観的な生産量は+トーナメント(B)>歩合給(A)>+妨害行為(C)であった。また、妨害行為が可能だと、主観的に大きい過小評価がなされていることがわかる。(なお、主観的評価が関係ないBでも過小評価は発生している。)

計量分析の結果、妨害行為が可能な状況で生産量が下がった原因として、「他人が正当に評価してくれる」と思っていない被験者の生産性が下がったことにあることがわかった。人間、自分がまっとうな評価を受けないと感じると、やる気がでないものなのであり、その影響は無視出来ない量である。


posted by とも at 00:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 労働問題・労働経済学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めて拝見しました。会社員(マスコミ関係)です。非常に興味深い研究を分かりやすくご紹介いただき、勉強になりました。会社員がやる気が出ない理由も分かりました・・・。
ブログの「よりよい社会へ」というところ、素晴らしいです。ご活躍を祈念しております。
Posted by 東京の会社員 at 2010年05月31日 00:22
コメントありがとうございます。本研究はなかなか、現実を上手く捉えているのではないかと思います。非常に面白かったです。

これからも研究頑張ります!面白い情報があれば、また記事にしていきます。

Posted by とも at 2010年05月31日 00:59
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