2010年05月25日

IT導入は公共セクターの生産性を上げるか?ー「組織」も合わせて変える必要ありー Garicano and Heaton(2010 JLE)

Garicano and Heaton(2010) "Information Technology, Organization, and Productiovity in the Public Sector: Evidence from Police Departments" Journal of Labor Economics


本研究は、アメリカの警察署のパネルデータを用いて、公共セクターにおけるIT(情報技術)が生産性をあげたかどうかを検証する論文である。ここで言う「IT」とは、コンピュータによる犯罪分析や調査、及び出動に関するシステム、また犯罪歴や交通規制など各種データベースの利用である。


本論文では「生産性」の指標として、主に検挙率(検挙数/通報数)及び犯罪率(犯罪発生数/人口)を用いる。(なお論文発表では、特に検挙率に関しては恣意的に操作できるのではないか、とのコメントがあった。)


まず、「生産性」を「IT利用度」と署や地域の各種データに回帰したところ、「IT利用度」は検挙率には有意な値をとらず、犯罪率には正の影響が出てしまった。この結果は、様々なRobustness checkをしても概ね変わらなかった。(例えば、IT利用によって単に記録がつけやすくなって「犯罪数」が増える、という結果が得られたが、その効果は全体には影響を及ぼさなかった。)


ここで、ITは組織形態の変化など経営慣行の変化を伴わない生産性が上がらないという、補完性仮説(Milgrom and Roberts 1990)を考える。先ほどの回帰に組織の階層数、専門スタッフの数、学歴の要件、訓練時間などを加えると、犯罪率の有意性はなくなった。


さらに、IT利用度に変えて「IT利用度、専門的組織の数、技術水準」のすべてがそろったとき1をとる、「『現代的組織』の指標」を用いると、この指標は犯罪率に負の有意な値を持った。(同様の分析を他のデータセットを用いて、さらに検挙率が正に有意となるような結果を得ている。)


まとめると、ITによって生産性を上げるには、それ単体では意味はなく、専門的組織の設置、スタッフのskill levelの上昇など、組織形態の変更を「全面的に」伴わなければならない、ということである。これは教育・医療など、IT導入が遅れているとされる分野での導入に際し重要な示唆を持つだろう。


posted by とも at 21:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題・労働経済学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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